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東京高等裁判所 昭和39年(ネ)618号 判決

控訴人(被告)

有本朝治

代理人

高野三次部

被控訴人(原告)

豊田汝信

代理人

岡田正美

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人の本訴請求を棄却する。被控訴人は控訴人に対し、別紙第一物件目録記載(イ)(ロ)の各物件(以下たんに本件土地建物という)につき、昭和三〇年二月一四日東京法務局新宿出張所受付第二、五二一号でなされた所有権移転請求権保全の仮登記、および昭和三一年四月一一日同出張所受付第七、一二二号でなされた代物弁済による所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は主文第一項同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用、認否、≪省略≫

理由

第一先づ、被控訴人の本訴請求について判断する

(一)  被控訴人は電話の売買および金融を業とする者であるが、昭和三一年二月一三日、控訴人に対し、同人所有にかかる本件宅地建物に抵当権の設定をえた上金七〇万円を貸し渡したことは、当事者間に争いがない。

<証拠>に徴すると、甲第五、第六号証の各念書はいずれも控訴人が昭和三一年二月一三日、被控訴人より金七〇万円の貸付を受けるにあたり、被控訴人より右貸金に関する事務の一切を委されていたその代理人である訴外伊東玄太郎の事務所において、同訴外人が予め本文を記載したものに控訴人において自署押印したものであることを認めることができ、<他の証拠>中右認定に反する供述部分は前掲各証拠と対比してにわかに措信しがたく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

そうして<証拠>を総合すると、控訴人は、被控訴人の代理人である訴外伊東玄太郎を介して、弁済期を昭和三一年三月一〇日と定めて前叙の金員の貸付を受けるにあたり、本件土地建物に抵当権を設定するとともに、控訴人が右貸金の返還債務の履行を怠つたときは、控訴人において右支払にかえて本件土地建物の所有権を取得することができること、および右抵当権の実行と代物弁済予約(いわゆる停止条件付代物弁済契約)完結権の行使の選択は、被控訴人の任意に委ねることを約諾した上、前叙のとおりの各念書(甲第五、第六号証)および抵当権設定金円借用証書(甲第一二号証)を作成して右契約成立の証とするとともに、その登記手続の用に供すべきものとして白紙委任状と印鑑証明書を交付し、もつて右抵当権設定登記と抵当権移転請求権保全仮登記を了したこと、並びに、被控訴人は、控訴人が前叙の貸金を約定の弁済期に返済しないため、昭和三一年四月五日控訴人に到達した同日付内容証明郵便によりあらためて支払期限を同年四月一〇日までと指定してその弁済方を催告するとともに(右内容証明郵便が前同日控訴人に到達したことは、当事者間に争いがない)、右指定の期日までに債務の履行のないときは本件土地建物を代物弁済として取得する旨の代物弁済予約完結の意思表示をなしたけれども、控訴人は右弁済期を徒過したこと、そこで被控訴人は右各物件は同人の所有に帰したものとして、昭和三一年四月一一日東京法務局新宿出張所受付第七一二二号をもつて代物弁済を原因とする所有権移転登記を経た(右登記のなされていることは当事者間に争いがない)ことがそれぞれ認められる。原審および当審における<証拠>中以上の認定に反する供述部分は前掲各証拠に対比してたやすく信用できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。してみれば、本件土地建物の所有権は、すでに被控訴人の所有に帰したものと認むべきである。

しかるに、控訴人が、現に、本件土地の上に別紙第二物件目録記載の(a)(b)の建物を所有し、もつて該敷地部分を占有していることは、控訴人において明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。

(二)  控訴人は、かりに被控訴人が本件土地の所有権を取得したとしても、控訴人は該地上に存する控訴人所有の別紙第二目録記載(a)(b)の建物の敷地部分につき、民法三八八条による建物の所有を目的とする法定地上権を取得した旨主張する。

わが国では、土地と建物を各々独立した不動産として取り扱うから、土地およびその上に存する建物が同一の所有者に属する場合に、その土地又は建物のみに抵当権を設定することもできるのである。ただ、土地と建物とが同一人に帰属するため、建物のために自己借地権のような利用権を設定することは、民法上不能であり、又競売の際にこれを設定することも事実上不能に近いから、抵当権の設定された土地または建物につき競売がなされた後も、地上建物の存立を全うせしめようとすれば、民法三八八条のような特別の規定が設けられるほかはないわけである。

ところで、土地および地上に建物を所有する者がその土地に抵当権を設定するとともに、代物弁済の予約をなし、抵当権の実行と予約完結権の行使の選択を債権者に委ねるという契約がなされた場合を考えると、代物弁済の予約は、実質上、抵当権の設定と同様に債権担保の効用を果すものであるが、その本質は、あくまでも土地所有者たる債務者が債権者に対する任意の譲渡を予約するものであつて、この場合には、前段で説明した抵当権の実行の場合とは異なり、予約完結権の行使により土地と地上の建物とが別個の所有者に、帰属することとなるかもしれないという想定の下に、予め、債務者の意思により、当該建物の所有を目的とする利用権(地上権又は土地の賃借権)の設定に関する合意をしておくことによつて、建物の存立を全うすることが可能なのである(本件においては、甲第一二号証の抵当権設定金円借用証書第四項参照)。要するに、競売の場合には、法律の規定があるからこそ法定地上権と呼ばれる建物の利用権が発生するが、代物弁済の予約の場合には、債務者は任意にこれと同様の利用権を債権者との合意により取得することができるのである。したがつて、本件のような場合に、民法三八八条を類推適用する必要はなく、控訴人の主張は採用できない。

(三)  しかして控訴人は本件土地の占有権原について他になんらの主張および立証をしないので、結局同人は無権限でこれを占有しているものと認めるのほかはない。

しからば、控訴人は被控訴人に対して、右(a)(b)の各建物を収去した上、本件土地を明渡すべき義務のあることは明らかである。

第二次に、控訴人の反訴請求について判断する。≪省略≫(三淵乾太郎 伊藤顕信 土井俊文)

別紙、第一、第二物件目録≪省略≫

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